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印鑑証明で実印を登録するときは夫婦で同じ印鑑でもOK?別にした方がいい?

結婚をして夫婦になると、婚姻届けにはじまり、役所などで様々な手続きが必要になりますが、その中の一つに、住民票が置いてある市区町村役場に実印の登録を行う「印鑑登録」があります。

そして、この印鑑登録を行う際に、「夫婦の印鑑登録は苗字が同じになるのだから、印鑑も同じものを2人で共有すればいいのでは?」ということを考える方もいらしゃるのではないでしょうか。

そこで、今回は

「印鑑証明で実印を登録するときは夫婦で同じ印鑑でもOK?別にした方がいい?」

というテーマで、夫婦と印鑑証明について、説明していきたいと思います。

印鑑登録できる印鑑は条例で定められている

まず、印鑑登録できる印鑑についてですが、各市区町村の印鑑条例により、その内容が定められておりまして、例えば、東京都港区では以下の通り、「登録できる印鑑について制限」が課されています。

 港区印鑑条例~第七条~
1住民基本台帳に記録されている氏名、氏、名若しくは通称(~中略~)又は氏名若しくは通称の一部を組み合わせたもので表していないもの
2職業、資格等他の事項を併せて表しているもの
3ゴム印その他の印鑑で変形しやすいもの
4印影の大きさが一辺の長さ八ミリメートルの正方形に収まるもの又は一辺の長さ二十五ミリメートルの正方形に収まらないもの
5印影が不鮮明なもの又は文字の判読が困難なもの
6その他登録を受けようとする印鑑として適当でないと区長が認めたもの

参考/港区印鑑条例

ただ、ご覧いただきました通り、上記の中で、今回のテーマである「夫婦で同じ印鑑を登録する」ということに具体的に×となりそうな箇所は見当たりません。

「では、正面をきって夫婦ふたりで市区町村役場へ向かい、同じ印鑑で印鑑登録ができるのでしょうか?」

結論から申し上げますと、夫婦で同じ印鑑で登録することは認められません。

なぜなら、上記以外の箇所で印鑑登録条例では、下記のようにも定めておりまして、

 港区印鑑条例~第二条~
1区長は、この条例の適用に当たつては、常に住民の権利の保護に留意するとともに、事務処理の効率化に努めなければならない。

印鑑登録を夫婦で同じ印鑑でもOKと認めることは、区長が住民の権利保護に留意しているとは言いがたい」からです。

では、夫婦で同じ印鑑でもOKと認めると、どうして住民の権利が保護されないことになるのでしょうか?

実印と印鑑証明書が揃うと高額の契約がいとも簡単に結べてしまう

jitusin

実印と印鑑証明書が求められる場面は、不動産の売買、ローン契約、贈与、連帯保証人契約、相続など多額の金銭などが絡む取引が多く、これらの契約がもし、夫婦とは言え、どちらかが勝手に結べてしまうとすると、どうでしょうか?

私たち夫婦は相手に黙って、そんな勝手なこと絶対にしない!

ほとんどの夫婦がそう口を揃えるかと思いますが、ただ、残念ながら、旦那が嫁に隠れて、嫁の実印と印鑑証明書を使って借金をしたり、あるいは、嫁が旦那の実印と印鑑証明書を勝手に持ち出し、連帯保証人契約を結んでしまったりするケースがあるというのが現実です・・・。

登録印鑑を夫婦で別々にしていたとしても、こうした事件が起こったりするという現実を考えますと、夫婦の登録印鑑である実印が同じものでOKですよということを認めるのは、どれだけリスクが高いかということはお分かり頂けるかと思います。

申請された登録印鑑を許可する市区町村の区長は、住民の権利保護の観点から、夫婦の登録印鑑が同じものでもOKとは決して言えない理由がここにあるのです。

実印と印鑑証明書が揃うとなぜ、それほどまでに効力が絶大なのか?

ここまでの説明で、夫婦の実印が同じであると、自分が意図しない契約を勝手に結ばれてしまうリスクが高くなるということは、ご理解頂けたかと思います。

では、そもそも、実印と印鑑証明書が揃うと、なぜ契約書の内容を覆すのが困難になるほど、その効力が絶大なのでしょうか?

その答えは、判例と法律による「2段の推定」に理由が求められます。

例えば、最も典型的なケースとして、契約内容の有効性が裁判で問われるケースを考えてみましょう。

嫁の知らないところで、旦那が、ある多額の借金の契約書に嫁の名前を記入し、実印で押印し、印鑑証明書を添付して、契約を結んだとします。

またお金を借りた先から、嫁が請求され裁判を起こされたときには、旦那はすでに失踪中だと仮定します。

そして、このとき、嫁が自分の意思で結んだ契約ではないと裁判で認めてもらうためには、なんと旦那に勝手に使われたということを「嫁が証明しなくてはいけない」のです。

つまり、失踪中の旦那を探し出し、旦那が勝手に結んだ契約だということを証明しなくてはいけないということです。

行方知らずの旦那を探すことも大変ですが、旦那の行為が勝手になされたものであるということを証明するのが、途方もなく難しいということは簡単に想像がつくかと思います。

では、それを証明できないと、どうなるかと言いますと、下の2つの推定が働き、嫁は”本人の意思を持って契約を結んだ”ということになってしまうのです・・・。

〇第一の推定 -判例-

 求償債権等請求 -最高裁判所第三小法廷 昭和39年5月12日-
1「私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。」

参考/求償債権等請求 -最高裁判所第三小法廷 昭和39年5月12日-

〇第二の推定 -法律-

 -民事訴訟法第228条-
14私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

参考/民事訴訟法 ~第二百二十八条~

実際の裁判などでは、実印と印鑑証明書が揃っている契約の場合でも、反証が認められ本人の意思で行われたものではないとされるケースもありますが、ただ、その道のりは決して平坦ではなく、むしろ、本人の意思により行われたと推定される可能性が極めて高いと考えておいた方がいいでしょう。

実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由についは、別の記事で詳しく解説しておりますので、そちらも参考にして頂ければと思います。

参考/実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?

印鑑登録する印鑑は、夫婦で別々以外の選択肢はない

ここまでお読み頂きまして、制度的にも、リスクを考えても、夫婦で別々の印鑑を登録した方がいいということは十分にお分かり頂けるかと思いますが、他にも、夫婦の登録印鑑である実印を同じにするリスクがあります。

例えば、夫婦で同じ印鑑にするということは、「苗字」だけの実印を作るということになりますが(市区町村によっては「苗字」だけは認めていない場合もあります)、それは、複製や悪用というリスクもそれだけ高くなることを意味しています。

例えば、印鑑証明の不正利用による事件は官民問わず、毎年どこかで起こっていますし、また、相続や贈与などでは、親族同士で争って・・、そのトラブルに印鑑証明が不正に利用されたり、また夫婦の離婚の財産分与を巡って・・・といったこともあったりします。

3Dプリンタや情報識別技術などの向上により、陰影から印鑑の再製が容易になる現代だからこそ、フルネームなどでの印鑑作成や夫婦別々での印鑑の登録や管理なども含めて、悪用防止策もしっかりと講じておきたいところです。

参考/印鑑証明書の悪用防止策について

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まとめ

「印鑑証明で実印を登録するときは夫婦で同じ印鑑でもOK?別にした方がいい?」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

親しき中にも礼儀ありではないですが、夫婦だからこそ、守るべきルールを守り、リスクを考えて、冷静に対処したいところですね。

最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました!

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【筆者プロフィール】

浅井美津子

保有資格である宅地建物取引士(免許番号:941700070)・簿記1級・販売士1級を活かし、長年にわたり、不動産、自動車などの売買契約業務から会計業務まで幅広く従事。社会問題から生活に関わる話題などについて、独自の視点で執筆活動も行っています。