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会社側から見たリスク対策としての印鑑証明書と実印による押印

「あるアルバイトが会社の売り上げを着服し、失踪・・大きな損害を被った・・・しかも偽名だった」

「あるアルバイトによるSNSでの発言が原因で、会社が大きな被害を受けた・・・」

「マンションに大きな損傷を与えたまま、本人の行方が分からなくなってしまった・・」

「未払い家賃を抱えたまま、本人が失踪したので、保証人に請求したら、契約内容を否認された・・・」

こうしたトラブルに巻き込まれないために、人材の採用や賃貸マンションへの入居にあたって、本人及び保証人に対して、万が一のときのための補償を求める対策を検討しているという経営者や人事担当の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、今回は、現代ならではのネットのリスクなどを見た後、本人及び保証人へのリスク対策(事後補償を確実に求めるための手段)としての印鑑証明書と実印による押印について説明していきたいと思います。

SNSをはじめとするネットの脅威

「○○のホテルにあの有名人が宿泊に来てる!」

「○○の不動産屋さんに、この前結婚した芸能人カップルが来店!」

ここ数年、アルバイトや従業員(非正規社員も含む)による、こうした軽はずみな発言が原因で、その会社のイメージが損なわれ、売り上げなどに大きな影響が出たというのは、ニュースなどでも報じられたことから、ご存知の読者も多いのではないでしょうか。

また、店内で”ふざけた”写真を撮影し、それをSNSで拡散することで、そのお店のブランドイメージや衛生環境などにネガティブなイメージがついてしまい、飲食店が閉鎖に追い込まれたというニュースもあったりします。

こうした一連の事案は、会社側にとってみれば、これまで心配する必要がなかった大きな「人的リスク」を抱えていることを意味しておりまして、さらに、そのリスクの大きさは、ネットの普及率とともに、年々増加しているというのが現状です。

下記は、総務省が毎年発表しているネット普及率の推移です。

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データ出所/総務省

いちアルバイトの軽率な発言とは言え、飲食店の店舗が1店舗閉鎖に追い込まれるときの被害となると、店舗のサイズにもよりますが、少なくとも数百万円から1千万円は下らないことを考慮しますと、決して軽視できるリスクではないと言えるでしょう。

会社が受けた損害の補てんを求めるにあたってのリスクは?

では、そうしたネットが原因の被害や、あるいは従来のような、横領、着服、損壊などによる損害を受けた場合、会社として補償を求めるにあたって、どんなリスクを考慮し、事前に対策を打てばいいのでしょうか?

まずは、リスクから見ていきましょう。

〇なりすましリスク

例えば、繁忙期の2週間や1ヶ月だけ、短期間のアルバイトを採用するというケースがありますが、そういった短期間であっても、しっかりと本人確認を行わないと、”なりすまし”をされてしまうというリスクがあります。

仮に”なりすまし”でアルバイトとして入社し、就労中に、何か会社に損害などを加えられた場合、会社側からすれば、最悪のケースでは、被害を請求できる対象の人物を特定できないということになってしまいます。

また、保証人についても同様のリスクがあると考えられ、例えば、保証人として契約した人が、実はなりすましだった場合、万が一のときには、被害の補償を求める道が絶たれてしまうということになります。

〇署名捺印の否認リスク

雇用契約書や入居に際しての契約書が間違いなく本人の意思により行われたかどうかは、法律上は、サインだけでも認められるとされています。(商法第32条雑則)

ただ、トラブルが発生し、実際に裁判などになった場合、それを証明するには、筆跡鑑定を行う必要があったり、認印による押印などの場合は、「本人とは別の人間が行ったものだ」と主張され、否認されてしまうというリスクが残ります。

また、筆跡鑑定や署名捺印の否認をされてしまった場合、それまでに相応の被害を被っている上に、追加のコストや時間もその分、必要となり、会社側にとっては、更なる負担となる可能性があります。

リスク対策の手立て

では、なりすましリスクや署名捺印の否認リスクなどを防ぐためには、どういったリスク対策を打つのがいいのかということを見ていきましょう。

〇本人確認

まず、最も基本となるのが、雇用契約や入居にあたっての契約を結ぶ本人確認ということになるかと思います。

本人の手による自署及び押印、そして、免許証やパスポートなど写真付きの公的書類のコピーがあれば、アルバイトなどのなりすまし対策としては、十分かと思います。(住民票や戸籍謄本などでも可)

ただ、何らかのトラブルが起きることを想定し、訴訟なども考慮して本人確認及び、本人の意思を特定するのであれば、契約書での実印による押印と印鑑証明書の提出が有効です。

なぜなら、実印による押印と印鑑証明書のセットの場合、過去の判例などでも、通称「2段の推定」と呼ばれる強力な推定が働きますので、本人の意思によるものだということは、仮に裁判になったとしても、ほぼ覆すことができないからです。

参考/実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?

〇保証人の確認

契約者本人に比べて、対面での意思確認などが難しいことから、より慎重に行いたいのが保証人のサインや押印、そして提出書類です。

仮に、契約者本人が、会社に甚大な被害を与えた場合、本人からの回収見込みが立たないということも十分に考えられ、その際は、保証人が補償という面では、非常に重要な存在になってきますので、その保証人の存在確認と意思確認については、きっちりと行っておきたいところです。

保証人の存在を確認するだけであれば、自署+認印などによる押印に加えて、住民票や戸籍謄本などでも可能ですが、ただ、上記のリスクでも説明した通り、サインや認印による押印の場合、裁判などに発展した場合、否認されるというリスクが残ります。

そこで、保証人については、対面などでのサインや押印が難しいからこそ、実印による押印と印鑑証明書により、確実な意思確認を行っておきたいところです。

そうすれば、仮に裁判などに発展した場合も、「2段の推定」を持って、有利に進めることができるでしょう。

対法人との契約でも同じ

ここまでは、対個人の場合でのリスクについて説明してきましたが、契約相手が法人となる場合でも同様です。

法人同士の契約で、”なりすまし”や”記名押印の否認”というのは、さすがにそう多くはないと思いますが、ただ、ビジネスにおいては、あらゆるリスクを考慮しておくのに越したことは有りません。

法人同士で、確実な意思確認を経て契約を結ぶのであれば、法人としての実印と印鑑証明書のセット(必要に応じて、代表者個人の実印による押印と印鑑証明書も)は確実にお互い提出するのが望ましいと言えるかと思います。

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まとめ

「会社側から見たリスク対策としての印鑑証明書と実印による押印」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

従来までの着服や横領、損壊、未払いなどのリスクに加えて、現代はネットによる被害など、企業側にとっては、新たなリスクが生まれてきています。

そうしたリスクに万が一、直面した際にも、きっちりと対応できるように、実印による押印と印鑑証明書などを利用しながら、事前に対策を打っておきたいところです。

本記事が、リスク対策を検討している経営者や人事担当などの方の参考になれば幸いです。

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【筆者プロフィール】

浅井美津子

保有資格である宅地建物取引士(免許番号:941700070)・簿記1級・販売士1級を活かし、長年にわたり、不動産、自動車などの売買契約業務から会計業務まで幅広く従事。社会問題から生活に関わる話題などについて、独自の視点で執筆活動も行っています。