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住宅ローン融資申し込みの審査・契約で必要な新住所の印鑑証明書についてのまとめ

当サイトのメインテーマである印鑑証明書と実印が必要になる場面は、多額の金銭が絡む取引が多いことが特徴として挙げられますが、その中でも最も代表的なケースの一つに、住宅ローンの融資申し込みを行うときの審査・契約があります。

そこで今回は、宅地建物取引主任として、数多くの不動産の売買に携わってきた筆者が、住宅ローンの融資申し込みにあたって必要となる印鑑証明書と実印に関する知識について、網羅的に説明していきたいと思います。

【筆者プロフィール】

浅井美津子

保有資格である宅地建物取引士(免許番号:941700070)・簿記1級・販売士1級を活かし、長年にわたり、不動産、自動車などの売買契約業務から会計業務まで幅広く従事。社会問題から生活に関わる話題などについて、独自の視点で執筆活動も行っています。

今回の記事の見出しは下記の通りになります。(詳細へのリンクをクリックで、該当のトピックへ進むことができます。)

見出し内容
そもそも印鑑証明書や実印って何?詳細へ
なぜ、住宅ロ-ンの審査では印鑑証明書や実印が求められるの?詳細へ
なぜ、住宅ロ-ンの審査では「新住所」の印鑑証明書が求められるの?詳細へ
本来の転入届のタイミングと印鑑証明書と住民票の発行について詳細へ
新住所の印鑑証明書と旧住所での印鑑証明書の効力について詳細へ
まとめ詳細へ

それでは、早速、見ていきましょう。

そもそも印鑑証明書や実印って何?

まず、そもそも印鑑証明書や実印とは一体、何をするためのもの?ということを説明したいと思います。(制度そのものを既にご存知の方は、この話題はスキップして、先にお進みください)

端的に申し上げますと、契約を結ぶにあたって、印鑑登録証明書(通称:印鑑証明書)、そして登録された印鑑(通称:実印)が紛れもなく本人のものであることを、公的機関である市区町村役場が証明するための制度のことを指しています。

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印鑑登録から印鑑証明書及び実印の使用までの流れは上記の通りとなっていまして、本制度のカギとも言うべき”公的機関の証明”を背景に、その効力は絶大なものとなっています。

どれくらい強力かと言いますと、一度、実印による押印と印鑑証明書が揃った状態で契約を結ぶと、後から、何らかの理由で契約の有効・無効を裁判で争うような事態になったしても、その契約を無効にするには大変な労力を伴うほどです。(しかも、それが仮に家族などに悪用された場合であったとしてもです。)

実際に過去の判例でも、確かな反証がない限り、実印による押印と印鑑証明書が揃った状態での契約は、本人の意思により契約が結ばれたと推定されるケース(通称:2段の推定)がほとんどになっています。

参考/実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?

今回、住宅ローンの融資の審査・契約にあたり、はじめて印鑑登録を行い、印鑑証明書の発行をするという方は、

〇実印による押印と印鑑証明書は公的機関により証明されていること

〇実印による押印と印鑑証明書が揃った契約は、後で覆すことが大変難しいものであること

〇それほどまでに印鑑証明書と実印による押印が大切なものであるということ

の3つをまずは理解して頂ければと思います。

なぜ、住宅ロ-ンの融資の審査・契約では印鑑証明書の提出が求められるの?

では、続いては住宅ローンの融資の審査・契約において、印鑑証明書と実印による押印が求められる理由について説明していきたいと思います。

先ほど、印鑑証明書は公的機関による証明を背景に絶大な効力を保有しているということを説明させて頂きましたが、住宅ローンの融資にあたっては、ご存知の通り、数百万円から数千万円、億単位といった金銭が絡む契約を結ぶことになりますので、その契約が本当に本人が自らの意思を持って申し込みをしているのかどうか、そして、後から、その契約について無効にして欲しいといったことがないように、売主、買主、銀行、そして法務局がそれぞれ”担保”を求めて、「印鑑証明書」を利用します。

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参考/不動産の売買契約と実印及び印鑑証明書について

上記は、不動産売買における所有権移転登記のイメージですが、法務局には、”売主”の印鑑証明書の提出が必要となります。(買主は住民票が必要)

そして、今回のテーマである住宅ローンの融資申し込みの審査・契約にあたっては、銀行が中心となって、その申込者が紛れもなく、本人であること、そして、本人の意思を持って申し込まれているということを担保するために、印鑑証明書が求められているということになります。

実際には、住宅ローンの融資申し込みの審査・契約にあたっては印鑑証明書を複数枚、提出することを求められることも珍しくなく、金銭貸借契約書の締結やローンの審査、抵当権設定、登記などに利用されます。

ちなみに、提出する印鑑証明書については、取得日から3ヶ月以内または6ヶ月以内が業界慣習となっています。

参考/印鑑証明書の有効期限について

なぜ、住宅ロ-ンの審査・契約では「新住所」の印鑑証明書または住民票が求められるの?

ここまでは、住宅ローンの融資申し込みの審査・契約にあたって印鑑証明書が求められる背景について説明してきましたが、やや専門的な箇所もあるものの、はじめての方でもざっくりとご理解いただけたのではと思います。

ただ、ここからの話については、これまでの話とは少し異なり、やや”アンタッチャブル”、つまり”グレー”な話題となります。

それが「新住所」での印鑑証明書及び住民票の発行です。

印鑑証明書や住民票は制度として、その人が居住した市区町村の役場で転入届を提出した後に印鑑登録を行って、はじめて発行できるのですが、「新住所」での発行となりますと、まず、「新住所」に住む必要があります。(現住所に住みながら、新住所での印鑑証明書の発行は原則不可となっています。)

「ん?ちょっと待って・・・何かおかしくない・・?」

そうなんです。

住宅ローンの融資の審査(通常は本審査、仮審査で印鑑証明書が必要というケースはまずありません)を受ける段階で、つまり、融資してもらえるかどうかの確証もない状況で、まだ住んでいないのに転入したことにして、新住所での印鑑証明書や住民票を発行する必要があるのです。

「え?!・・・おかしいでしょ・・・じゃあ、新住所の役所窓口で担当者に例えば、『先週に引っ越してきた〇〇です』って嘘をつかなくてはいけないの?」

という声が聞こえてくるのも尤もだと思いますし、筆者も現行の制度に矛盾があると感じざるを得ません・・・。

「では、新住所での印鑑証明書や住民票を求めるのをやめればいいのでは?」

と、すんなりいけばいいのですが・・ただ、この点に関しては、実は様々な事情があるのです・・・。

〇銀行側が新住所の印鑑証明書を求める事情

銀行が住宅ローンの融資の審査・契約にあたり、その融資対象とする不動産は、「新住所」での家屋や土地、区分所有権になります。

つまり、金銭貸借契約書の締結及び抵当権設定登記にあたって、万全を期したい銀行としては、住宅ローンの貸し手として、できれば「新住所」での印鑑証明書を手に入れたいのです。

そういった理由などから、銀行としては、「新住所」の印鑑証明書を申込者に求めるという状況になっています。

ただ、銀行側も新住所の印鑑証明書の発行が”容易ではない”ことは承知していますので、必ず・・・というわけではありません。

ちなみに、筆者は旧住所での印鑑証明書の発行だったために、審査が通らなかったというケースは聞いたことがありません。

〇所有権移転登記と司法書士などへの報酬

先ほど、不動産売買契約のところで、所有権移転登記の説明についてイメージでご覧いただきましたが、あの流れは最もスムーズな流れのケースで、例えば、新住所での印鑑証明書の提出を行わず、旧住所のまま登記を行うとなると、その手続きと費用は平たく言ってしまいますと、”2重”になってしまいます。

下記で新住所と旧住所での手続きをまとめましたので、その違いをご覧ください。

新住所の住民票及び印鑑証明書を提出した場合旧住所の住民票及び印鑑証明書を提出 
新住所の住民票及び印鑑証明書を提出旧住所の住民票及び印鑑証明書を提出
新住所で所有権移転登記が完了旧住所で所有権移転登記 
新住所で住民票及び印鑑証明書を発行
住宅の登記情報の新住所への登記名義人表示変更登記

不動産の登記に関しては、ほとんどの方が司法書士の方へ業務委託されるという現状を考えますと、手続きが2重になってしまうというのは、その分、報酬が多く掛かることになりますので(一般的には+3万円前後)、もし、新住所の印鑑証明書の提出が可能であれば、1回で済む手間とあわせて、買主側のメリットということになります。

〇登録免許税について

不動産の売買、そして、住宅ローンの締結にあたっては上記のように、幾つかの登記の手続きを行う必要がありまして、それに伴って必要となるのが、「登録免許税」という名の税金です。

許認可に掛かる手続きに必要な税金の登録免許税ですが、住宅の取得を後押しするという政府の意向から、軽減税率が設定されていまして、この軽減措置を受けるためには、新住所での印鑑証明書及び住民票が必要となっています。

参考/住宅に係る登録免許税の軽減措置(財務省HP)
参考/住宅用家屋の軽減税率(国税庁HP)

〇役所の担当者から見た新住所の印鑑証明書と住民票

銀行、買主、司法書士などそれぞれの立場から「新住所」での印鑑証明書と住民票の発行について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。

最後に、ここからは住宅ローン融資の申し込みにおける新住所での印鑑証明書と住民票の発行について、役所の方がどう見ているのかを探ってみたいと思います。

今回、筆者がコンタクトを取ったのは、当サイトのライターでもあり、元公務員のNさんです。

【Nさんのプロフィール】

N.hisashi

公務員を定年退職後、WEBライターとして執筆活動を行う。公務員時代の実務経験をもとに、多ジャンルで記事を執筆。また、日本各地での勤務経験があることから、ローカルネタにも明るい。

筆者「早速ですが、今の住宅ローンの融資の審査・契約にあたっての転入届及び住民票と印鑑証明書発行を取り巻く現状について、役所の方はどうお考えなのでしょうか?」

Nさん「この件については、担当者のほとんどは制度の矛盾を理解した上で、事情を鑑み、転入届を受理し、印鑑証明書と住民票の発行を行っているというのが現状ですね」

筆者「では、いわゆる”役所的な”建前に目をつむり、新住所へ転入される方の状況を察して、担当者レベルで柔軟に対応しているということでしょうか?」

Nさん「そういうことになりますね。ただ、”なりすまし”というリスクもありますので、売主の方には、しっかりと確認を取るようにしています。(※)」

※筆者注/地域によって異なりますが、売主や中古物件などでまだ先の居住者がいる場合は、ハガキなどで状況確認するという方法が取られています。

筆者「確かに、そうしたリスクにも対応していかないと、こうした柔軟性のある対応をされている現状が立ちゆかなる可能性がありますよね。」

Nさん「その通りです。新住所へ引っ越しされる方は、制度の矛盾だと思ってやり過ごすか、あるいは、手続きとお金、時間を掛けてでも手順通り行うしかないというのが、残念ながら今の状況です。」

筆者「ご説明ありがとうございました。」

本来の転入届のタイミングと印鑑証明書と住民票の発行について

ここまでは、住宅ローンの融資申し込みにあたっての、”グレー”な印鑑証明書と住民票の発行について見てきましたが、念のため、法律や条例では、どのように転入と印鑑証明書と住民票の発行を定めているのかということを確認しておきましょう。

まず、転入については、住民基本台帳法22条で下記のように定めています。

住民基本台帳法 第二二条
転入(新たに市町村の区域内に住所を定めることをいい、出生による場合を除く。以下この条及び第三十条の四十六において同じ。)をした者は、転入をした日から十四日以内に、次に掲げる事項(いずれの市町村においても住民基本台帳に記録されたことがない者にあつては、第一号から第五号まで及び第七号に掲げる事項)を市町村長に届け出なければならない。
一 氏名
二 住所
三 転入をした年月日
四 従前の住所
五 世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
六 転入前の住民票コード(転入をした者につき直近に住民票の記載をした市町村長が、当該住民票に直近に記載した住民票コードをいう。)
七 国外から転入をした者その他政令で定める者については、前各号に掲げる事項のほか政令で定める事項

参考/住民基本台帳法条 届 出(第二十一条-第三十条)

そして、罰則については、住民基本台帳法で下記のように定めています。

住民基本台帳法 第五二条
第二十二条から第二十四条まで、第二十五条又は第三十条の四十六から第三十条の四十八までの規定による届出に関し虚偽の届出(第二十八条から第三十条までの規定による付記を含む。)をした者は、他の法令の規定により刑を科すべき場合を除き、五万円以下の過料に処する。

2 正当な理由がなくて第二十二条から第二十四条まで、第二十五条又は第三十条の四十六から第三十条の四十八までの規定による届出をしない者は、五万円以下の過料に処する。

参考/住民基本台帳法条 罰則

また印鑑証明書については、各地域の条例などにより定められています。

下記は、東京都港区の印鑑条例。

印鑑条例 第三条
港区に住所を有し、住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号。以下「法」という。)により記録されている者は、一人一個に限り印鑑の登録を受けることができる。

参考/港区印鑑条例

新住所の印鑑証明書と旧住所での印鑑証明書の効力について

ここまでは新住所での印鑑証明書の取得について見てきましたが、仮に旧住所に住んだまま、新住所での印鑑証明書を取得する場合、旧住所での印鑑証明書の効力がどうなってしまうの?という点も確認しておきたいと思います。

結論から申し上げますと、新しい住所で印鑑登録を行うと、それ以降、旧住所での印鑑証明書は無効になります。

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例えば、住宅ローンの融資申し込みの審査に新住所での印鑑証明書を提出して、同時期に、車のローンの審査で、旧住所の印鑑証明書を提出するといったことができないという意味になります。

印鑑証明書は、条例にもある通り、住民票がある地域でのみ、その効力を発揮することができます。

参考/印鑑証明や印鑑登録が無効になるとき

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まとめ

「住宅ローン融資申し込みの審査・契約で必要な新住所の印鑑証明書についてのまとめ」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

筆者も過去に、住宅ローンの融資申し込みの審査を受けたことがありますが、多くの書類が必要なことに困惑しつつ、さらに審査が通るかどうかという不安な気持ちを抱えながら、新しい住所の印鑑証明書まで発行するというのは、正直なところ、かなり複雑な気持ちでした。

今回の記事が、同じ心境の方に少しでもお役に立てれば幸いです。

なお、印鑑登録から印鑑証明書の発行までについて、詳しく知りたいという方は、下記にそのための記事を用意しておりますので、参考にしていただければと思います。

参考/印鑑登録証明書の取り方・取得の方法

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【筆者プロフィール】

浅井美津子

保有資格である宅地建物取引士(免許番号:941700070)・簿記1級・販売士1級を活かし、長年にわたり、不動産、自動車などの売買契約業務から会計業務まで幅広く従事。社会問題から生活に関わる話題などについて、独自の視点で執筆活動も行っています。