会社を設立しようとすると、様々な書類の提出を役所などから求められますが、今回は数ある提出書類の中から、定款認証と登記申請で必要になってくる印鑑登録証明書(通称:印鑑証明)に関する知識や手続きについてまとめてみました。
「なぜ、会社を設立するのに印鑑証明が必要なの?」
「どんなときに、誰の印鑑証明書をどこへ提出する必要があるの?」
「そもそも印鑑証明書を発行する手続きってどうすればいいの?」
などについて説明していきたいと思います。
では、さっそく見ていきましょう。
株式会社の設立で印鑑証明が必要になる定款認証や登記申請とは?
まず、具体的な説明に入る前に、会社を設立するまでに法務局や公証役場で印鑑証明が必要とされる流れについて、ざっくりと把握していただくためのイメージをご用意しましたので、まずはそちらをご覧ください。
なお、この場合の会社とは「株式会社」のことを指しています。
ご覧いただきました通り、株式会社を設立するにあたって印鑑証明が必要になる場面は2度ありまして、まず1度目は会社設立を呼びかけ、実際に設立するまでの役割を担う「発起人」が会社の定款を公証役場で認証してもらう場面になります。
株式会社の設立を行う発起人とは?
これまで会社を設立したことがないという方には、あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、平たく言えば、会社設立の準備をする人のことです。
具体的には、下記のような作業を行います。
発起人の役割 |
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定款の作成をする |
出資(株式の一部または全部) |
設立時の役員などの選任 |
設立までの手続き、開業準備など |
これから会社を設立しようと考えている人の中には、会社の経営、日々の仕事のすべてを一人でこなすつもりという方もいるかと思いますが、法律上は会社の設立業務を行う人を発起人、会社の経営を行う人を代表取締役、業務を執行する人を従業員といった形でそれぞれの役目ごとに、便宜上、名称が分けられています。(正確にはそれぞれの名称の定義はありますが説明が長くなってしまいますので、割愛しています)
なお、発起人は1人だけでなく、複数でもOKですし、外国人や法人でも、もちろん大丈夫です。
そして、発起人が会社設立にあたって、必ず行わなければいけないのが、定款の認証です。
株式会社の設立で必要な定款認証とは?
まず、定款とは会社法では下記の通り、定められておりまして、どこの誰が、どんな会社(事業)を、どんな目的で設立するのかということを書類にしたものになります。
(定款の記載又は記録事項) |
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第二十七条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。 一 目的 二 商号 三 本店の所在地 四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額 五 発起人の氏名又は名称及び住所 |
参考/会社法 -第二十七条-
(※会社を立ち上げた後、最初に定款で定めた事業以外の事業を行うなど事業内容が変化すると、この定款は都度、変更を加える必要があります。)
そして、株式会社を設立するためには、会社法の第26条で定められている通り、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印する必要がありまして、さらに、その定款を公証人に認証をしてもらう必要があります。
第二十六条 株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。 |
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前項の定款は、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)をもって作成することができる。この場合において、当該電磁的記録に記録された情報については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。 |
(定款の認証) |
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第三十条 第二十六条第一項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。 |
参考/会社法 -第二十六条-
そして、この定款を公証人に認証してもらうというときに、今回の本題である「印鑑証明書」がいよいよ必要になってきます。
定款を完成させた発起人が、公証人法で定められた公証人のもと、公証役場で定款認証をしてもらうことになるのですが、このとき公証人は、定款に記載された発起人が紛れもなく、本人であるということを確認する必要があるのです。
書面による定款の認証嘱託の手続等-発起人の印鑑登録証明書 |
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発起人が人違いでないことの証明をすることが必要です。 定款に記載された発起人の住所、氏名及び押印の正確性を確認できることや多くの場合、発起人が設立時の取締役等を兼ねることもあって、実務上は印鑑登録証明書の提出によっています。なお、印鑑登録証明書は発行後3か月以内のものに限られています。 |
その本人確認のために必要となってくるのが、実印による押印と、印鑑証明書になります。
なぜ、本人確認のために実印による押印と印鑑証明書が求められるかいう点については、過去の判例などでも実印による押印と印鑑証明書がセットになっていると通称「2段の推定」という強力な推定がなされ、本人が自らの意思を持って署名・捺印したとみなされるからです。
逆に言えば、ゴム印などでは”なりすまし”の可能性があるため、受け付けてもらえないということになります。
参考/実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?
また、注意する必要があるのは、定款に記載する発起人の住所・氏名と印鑑証明書に記載されている住所・氏名が異なる場合です。
浜田が濱田だったり、渡辺が渡邊だったり、4-9-1が4丁目9番地の1だったりするケースがありますので(定款への発起人の氏名・住所の記載は、印鑑証明書と同じにする必要があります)、心配な方は、先に印鑑証明書の住所・氏名を確認したほうがいいでしょう。
株式会社の設立で必要になる登記申請とは?
無事、定款認証が終わった後は、今度は取締役の選任や代表取締役の選任、株主総会の設置の有無などを決めて、会社として正式に成立させるために、登記申請手続きへと進むことになります。
会社法では、下記の通り、本店所在地に登記を行うことによって会社として成立が認められる形になりまして、「法務局」あるいは法務局の管轄下にある「登記所」で登記を行います。
株式会社の成立 |
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第四十九条 株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。 |
参考/会社法 -第四十九条-
そして、この登記を行うにあたって、必要となるのが取締役の実印による押印と印鑑証明書になります。
ただ、この「取締役」の実印による押印と印鑑証明書は、設立する会社の形態により求められるケースが異なってきます。
具体的には、取締役会を設置する場合は、その代表取締役の実印による押印と印鑑証明書が求められ、取締役会を設置しない場合は、選任された取締役全員の実印による押印と印鑑証明書が求められるという形になります。
会社設立がはじめての方には少しわかりにくい箇所かと思いますので、下記のイメージを参考にしていただければと思います。
例えば、夫婦で会社の設立を考えていて、取締役会を設置せずに、二人で出資して二人が取締役になる場合は、二人とも実印による押印と印鑑証明書が必要になります。
一方で、取締役会を設置する場合は、代表取締役だけが実印による押印と印鑑証明書の提出が必要となります。
では、この取締役会を設置する、しないにどんな違いがあるのかと言いますと、取締役会を設置する場合は、会社法などで細かな規定があり、それに沿った会社を作る必要があります。(会社法では取締役会を設置しない会社への言及はなし)
例えば、取締役会を設置する場合は、「設立時取締役は、三人以上でなければならない」といった条件が課されていたりします。
設立時役員等の選任及び解任 |
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第三十九条 設立しようとする株式会社が取締役会設置会社である場合には、設立時取締役は、三人以上でなければならない。 |
参考/会社法 -第三十九条-
他にも、出資を広く外部から募る「公開会社」や監査役を設置する「監査役設置会社」にする場合などは、必ず取締役会を設置する必要があります。(公開会社の場合、設置した機関はすべて登記情報として誰でも閲覧が可能になります)
「どちらを選べばいいの?」という質問に対しては、対外的には特に大きな違いはありませんので(会社運営上、銀行や取引先などに影響を与えることはまず考えらません)、手続き上”スモール・スタート”を希望する場合は、取締役会を設置しないという選択で問題ないかと思います。
ところで「印鑑証明」はどこで取得できるの?
定款認証、そして登記まで進みますと、会社設立に伴って必要になる印鑑証明書の説明は終了となるのですが、ここまでお読みの方の中には、ところで、「そもそも、印鑑証明ってどこで取得できるの?」という方もいるかもしれません。
印鑑証明は下記の通り、自分の住民票がある市区町村役場で印鑑の登録を行い、その証明書を発行してもらうという制度になっておりまして、会社設立のほかにも、自動車の購入やマイホームの購入など高額な取引などで使われることが多いという特徴があります。
印鑑証明の取り方(印鑑登録証明書の取り方・取得の方法)や手続きの流れについては(印鑑登録から印鑑証明を発行するまでの時間と流れをざっくり見る!)などの記事で詳しく解説していますので、参考にしていただければと思います。
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まとめ
「会社設立の登記申請や定款認証に印鑑証明が必要な理由と手続きのまとめ」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
これから株式会社の設立を考えているという方に参考にしていただければ、幸いです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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